インスタントラーメンの「高品質化時代」
高品質化をキーワードに次々とブランドが誕生
インスタントラーメンのバラエティを広げるために、各社原材料の品質改良や加工技術の向上を目指し、インスタントラーメンの高品質化時代がはじまりました。
新しいブランドの誕生
1962(昭和37)年に登場したスープ別添えタイプが、インスタントラーメンの新しい流れを作ったことは先にお話ししたとおりです。それを契機にインスタントラーメンは、焼きそば、タンメン、ワンタンめん、和風めんと、めざましい多様化をみせていきます。そしてバラエティの広がりは、原材料の品質改良や加工技術の向上につながり、インスタントラーメンの高品質化を進めることになります。
1966(昭和41)年1月、サンヨー食品から発売された「サッポロ一番」。これはガーリックのきいた新しい味で、乾燥ねぎ入りという工夫もされ、たちまちヒット商品となりました。サンヨー食品はこの商品によって、「長崎タンメン」に続く新しいブランドを確立したのです。当時、ほかのメーカーは20円ラーメンなどの価格勝負の新商品は出していましたが、同じ味のジャンルで差別化を図った商品はまだありませんでした。各メーカーは高品質化をキーワードに、自社の主力商品を超える商品開発を急ぎます。
同じ1966(昭和41)年9月、明星食品が発売したのが、ホタテ味をベースにした「明星チャルメラ」です。木の実のスパイスが添付され、めんに使われる小麦粉も、特等粉になっていました。
さらに翌1967(昭和42)年10月、エースコックの「駅前ラーメン」が100gの大判で登場します。乾燥野菜やスパイスなども添付されていました。
日本人の体位は年々急速に向上していて、従来の85gではもはや物足りなくなった、というのが「大判」化を図った理由です。
従来の85gから100gへのボリュームアップは、若者たちの支持を受けます。
そして1968(昭和43)年2月、日清食品の高品質化商品として、ごまラー油
付き「出前一丁」が発売されます。
ノンフライめんの登場
インスタントラーメンの高品質化は、やがてノンフライめん(非油揚げめん)を誕生させます。ノンフライめんは、蒸熱処理でアルファー化されためんを、文字どおり油揚げによらないで、熱風で乾燥させたものになります。油揚げめんのような油脂の劣化がなく、めんの食感が生めんにより近いこと、スープの持味を生かせること、など利点が多くあります。
ブームの口火を切ったのは、1968(昭和43)年9月、ダイヤ食品(明星食品の子会社)が発売した「サッポロ柳めん」で、油脂分の旨味を補うため、ラード、胡麻、オリーブ油などを成分とする「液体スープ」の小袋が添付されていました。
1969(昭和44)年には明星食品から「中麺」、日清食品から「日清生中華」、サンヨー食品から「来来軒」、東洋水産から「なま味ラーメン」、エースコックから「麺生中華」がそれぞれ発売されました。
ノンフライめんの登場は、乾燥技術の開発だけではなく、液体スープの開発やそれを包装する包材や装置の開発にもつながりました。同じ年の9月、明星食品から日本そばで初めてのノンフライめん、「のだてそば」が発売されます。これは山芋を使った「とろろつなぎ」で、液体スープの「本がえし」が添付されていました。
翌1970(昭和45)年7月には東洋水産が「マルちゃん天ぷらそば」を発売。ともに40円という小売価格に挑戦し、業界の注目を集めます。しかし、こうした高品質化商品も価格競争の波に飲み込まれることになるのでした。
インスタントラーメンの10年目
メキシコオリンピックが開催され、日本では三億円事件があり、企業倒産が続いた1968(昭和43)年、インスタントラーメンの主原料である小麦粉の価格が2.5%の値上げをしました。
1965(昭和40)年以降下がり続けてきたインスタントラーメンの市場価格は、1968(昭和43)年を最低として、以後は上昇していきます。
ノンフライめんの登場など高品質化が進んだ1970(昭和45)年には、小麦粉やラードが大幅値上げとなり、各社とも1食5円の値上げを実施します。
そして希望小売価格は久しぶりに35円に戻りました。
インスタントラーメンは1958(昭和33)年の「チキンラーメン」誕生時、1食35円で販売され、過当競争のもと30円に値下がり、高品質化、大判の登場を迎えても30円という値段は変わりませんでした。
その価格が10年目にして35円に戻ったということです。
同じ10年のあいだに、10円だった国電の最低運賃は30円に、850円だった精米は1510円に、14円だった牛乳180ccは25円に、390円だった新聞料金は750円に、17円だった銭湯は38円に、インスタントラーメンと同じ35円だった食パンは50円になっていました。
インスタントラーメンは、コストを吸収しながら味の多様化を実現し、品質を高め、めんづくり、味づくりそして包装技術でもめざましい発展をとげてきたのです。
それを可能にしたのは、激しい競争のうちに工程の自動化や大型化、高速化などのあらゆる効率アップへの努力があったからです。1袋のインスタントラーメンは、加工食品技術史の結晶とも言えるでしょう。